エピソード
かつて琵琶湖に次ぐ日本第二の湖だった八郎潟。その主・八郎太郎の伝説は東北に広く伝わる。十和田湖の主の座を追われた八郎太郎がこの地に湖を作って棲みつき、冬には田沢湖の辰子のもとへ通うため、主の留守になる田沢湖は凍り、八郎潟は凍らない――という壮大な物語である。戦後の大干拓で湖の大部分は大地に変わり、伝説の湖は調整池としてその名残をとどめる。
語られる噂は、干拓地の一本道で夜に人影を見た、調整池のほとりで水音とともに気配を感じた、どこまでも続く直線道路で車に異変が起きた、といったもの。地平線まで続く干拓地の夜は目印がなく、方向感覚を失いやすい環境でもある。湖の主の伝説と、湖を消した人間の大事業。その両方を知って眺める大潟村の風景は、他のどこにもない不思議な感慨がある。