エピソード
千曲市の冠着山、通称・姨捨山。年老いた親を山に捨てたという棄老伝説の山として、古今和歌集の昔から日本人の心に刻まれてきた場所である。「わが心慰めかねつ更級や姨捨山に照る月を見て」――捨てた伯母を思って詠まれたと伝わる歌の通り、ここは月の名所でもあり、山腹の棚田に月が映る「田毎の月」は日本の原風景として名高い。
語られる噂は、夜の棚田で老女の人影を見た、山道で誰かに呼ばれた、月夜に人の泣く声を聞いた、といった伝説と結びついたもの。伝説自体は各地の昔話と同根の物語であり、実際にこの地で棄老が行われた記録はないが、「親を捨てた山」という重い物語を千年背負ってきた土地である。
姨捨駅からの善光寺平の夜景は「日本三大車窓」に数えられ、棚田は名勝に指定されている。月と伝説の山は、秋の月夜がもっとも似合う。