エピソード
富士山麓に広がる約30平方キロの原生林。千年余り前の噴火で流れた溶岩の上に森が育った、世界的にも珍しい溶岩台地の樹海である。「コンパスが狂う」「一度入ると出られない」という伝説で知られるが、実際には磁針が大きく狂うことはなく、遊歩道も整備されている。溶岩の起伏と似通った景色の連続が方向感覚を奪うことが、伝説の正体と考えられている。
一方でこの森が、悲しい場所として語られてきた歴史があることも事実である。地元では見回りと声かけの活動が続けられ、森の入口には思いとどまるよう呼びかける看板が立つ。この森について語るとき、興味本位の怪談はその営みへの敬意を欠く。
樹海の本当の顔は、溶岩洞窟と苔の森の神秘である。富岳風穴・鳴沢氷穴などの観光洞窟やガイドツアーで、遊歩道から森の静寂を体験してほしい。道を外れないこと。それがこの森のすべてのルールである。