エピソード
犬山市にある江戸初期築造の巨大なため池。日本最大級の農業用ため池として今も現役だが、この池には「入鹿切れ」と呼ばれる悲劇の歴史がある。明治初年、豪雨で堤が決壊し、濁流が下流の村々を呑み込んで千人近い犠牲者を出したと伝えられる、東海地方最大級の水害である。決壊口の跡には供養碑が立ち、地元では今も慰霊が続けられている。
語られる噂は、夜の水面に人影が見えた、湖畔で水音とともに声を聞いた、ボート乗り場に誰かが立っていた、といったもの。穏やかなため池の風景からは想像しにくいが、この池の噂の背景には実際の災害の記憶がある。
昼間の入鹿池はワカサギ釣りのボートが浮かぶのどかな景勝地で、明治村に隣接する観光エリアでもある。池の恵みと池の悲劇、その両方を知ってから眺める水面は、いっそう静かに見えるはずだ。